

たとえば、Aが知人Bにお金を貸して金銭消費貸借契約書(私製証書)を作ったという場合を例にとります。この場合、Bは後になって「私はお金を借りた覚えはない、契約書はだれかが勝手に私の名前と印鑑を使って作ったものだ」などと言い出し、返済してくれないことも考えられます。
仮に契約書を作るときに第三者に立ち会ってもらったとしても、Bは「その立会人もウソをついている」などと言うおそれもあります。
こんなときに、一般に信用されるような公的な立場の人が契約書の作成に関与してくれる制度があれば、このような金銭に関する争いを未然に防ぐことができます。そのための制度が公正証書の制度です。
公正証書とは、一定の有資格者の中から法務大臣により任命される公証人が、当事者間に一定の法律関係が存在することを認めたうえ、これを公的に証明するために作成する公文書のことで、公証人法という法律の定める厳格な作成手続きに従って作成されるものです。
そのため、公正証書には高い証拠力と執行力が認められています。

公正証書によらずにAB当事者のみで作成された契約書(私製証書(私署証書))の場合、Aが後の訴訟等でその私製証書を証拠とするためには、その私製証書(私署証書)が確かにABの真意やお金の貸し借りの事実に基づいて作成されたものであるということを証明しなければなりません。
そのため、私製証書(私署証書)の場合は、上記のように後の訴訟等でBから「私はお金を借りた覚えはない、契約書はだれかが勝手に作ったものだ」などという事実とは違う主張をされてしまうと、本当にこの私製証書(私署証書)がABの真意や事実に基づいて作成されたものだということを争わなければならなくなってしまうのです。
これに対し、公正証書の場合は、公証役場にてAB双方の説明を聴取したうえで作成したものですから、それが法律の定める手続きに従って作成されたものである限り、原則として特に証明を要しないで証拠とすることができる、という高い証拠力を備えているのです。

貸したお金の返済について約した債務弁済契約書や準消費貸借契約書のように、一定の金額の支払いが約束されている契約を公正証書にしておけば、債務者Bが約束通りに借入金の返済をしなかった場合でも、債権者Aはわざわざ裁判所に訴訟等を提起して判決等を得なくても、すぐに債務者Bの財産(給料・預貯金等)に対して強制執行(差押え)を行うことができます。
これに対し、私製証書(私署証書)の場合は、いくら完璧なものを作ったとしても、そのままでは執行力はありませんので、強制執行を行うには訴訟等を提起して判決等を得なければなりません。
つまり、公正証書を作成しておけば、私製証書(私署証書)しか作成していない場合に比べて、はるかに簡易・迅速に債権回収を実現することができるといえるでしょう。
●公正証書を作成する際に、強制執行認諾約款が欠けてしまうと執行力は生じませんので、公正証
書には必ずこの強制執行認諾約款を記載します。
●公正証書にて強制執行を行うには、公正証書作成後に「送達の申立て」「執行文付与の申立て」
を公証役場にて行わなければなりません。
※申立書は公正証書作成時に同時に提出することもできます。

公正証書には、上記のような高い証拠力や強い執行力がありますので、債務者Bとしては、公正証書が作成されると、約束通りの返済をしないと債権者Aがいつ強制執行(差押え)をしてくるか分からないなどといった心理的なプレッシャーを感じることとなります。
このように、公正証書を作成することにより、債務者に強いプレッシャーを与えることができますので、債務者の任意の返済を促進することができるという副次的な効果も期待できます。