複数の任意後見人や法人を任意後見人に選任する場合の注意点(1)
複数の任意後見人間の権限の関係
複数の任意後見人を置く場合、権限の重複を認めるのか否か、権限の重複を認めるときは単独代理(権限の個別行使)を許すのか、それとも共同代理(共同行使)を義務付けるのかによって、複数の任意後見人間の権限の関係は、次の3類型に分類することができます。
- 複数の任意後見人に、代理権限を分掌させ、単独代理を認める場合
- 複数の任意後見人に、重複して代理権限を与え、単独代理を許す場合
- 複数の任意後見人に、重複して代理権限を与え、共同代理を義務付ける場合
どのような場合に複数の任意後見人が置かれることが多いか
任意後見契約を締結するに際し、上記の3類型をどのように使い分けたらよいか、また、その場合の契約書の記載の仕方やその他の注意点について見ていきます。
複数の任意後見人に、代理権限を分掌させ、単独代理を認める場合
これは、任意後見受任者の専門分野や得意分野に応じて代理権限を分掌させたほうがよい場合に多く使われますが、以下のような事例でも用いられることがあります。
- 長男が任意後見人になることを承諾したが、郷里にある不動産の管理までは手が回らないため、郷里にある不動産の管理については今までどおり郷里にいる二男に委ね、その範囲で二男を任意後見人とするような場合
- 賃貸アパート3棟を子供3人に、それぞれ1棟ずつ相続させる旨の遺言書をすでに作成しており、現時点においても子供3人に、各自が相続予定のアパートの賃貸管理を委ねているため、任意後見契約締結にあたっても、子供3人を任意後見人にして、アパート毎に賃貸管理権限を分けたいような場合
複数の任意後見人に、重複して代理権限を与え、単独代理を許す場合
これは、以下の事例のように、1人の任意後見人に支障が生じた場合に備えて、あらかじめ権限の重複するもう1人の任意後見人を定めておく方法です。
- 同居している長男を任意後見人とするが、長男は将来、海外勤務や海外への長期出張もあり得るので、そのような一時的に後見事務ができなくなる場合に備えて、二男にもあらかじめ同一内容の代理権を与えておくような場合。もっとも、このようなケースの場合は、複数の任意後見人を置かなくとも、復代理人の専任で対応することが可能な場合もあります。
- 子供のいない夫婦の場合、妻の任意後見人に夫がなり、夫が元気な間は後見事務を担当するが、死亡等により後見事務ができなくなる場合に備えて、甥にもあらかじめ同一内容の代理権を与えておくような場合。この場合は、夫が元気な間は、甥は後見事務を行うことを事実上差し控えることが予定されています。
複数の任意後見人に、重複して代理権限を与え、共同代理を義務付ける場合
これは、後見人の恣意的な代理権行使を防止するため、後見事務の全部または一部について、複数の任意後見人の共同代理を義務付ける場合です。次のような事例が考えられます。
- 相続人間で将来後見事務に関して争いが起きるのを避けるため、2人いる姉妹が常に相談して後見事務を行うよう権限の共同行使を定めておく場合
- 同居していて、しかも時間的にも余裕のある三男を任意後見受任者とするが浪費癖がないわけではないので、三男による不透明な財産管理や浪費がないかチェックするため、別居している長男にも任意後見受任者になってもらい、権限を共同行使するよう定めておく場合
複数の任意後見人を置く場合の任意後見契約公正証書の作成方法
複数の任意後見人に「代理権限を分掌させ、単独代理を認める場合」や「重複して代理権限を与え、単独代理を許す場合」は、任意後見受任者ごとに契約があると考えられるので、受任者ごとに別個の公正証書を作成するのが原則です。しかし、複数の契約を同時に締結する場合は、希望すれば、複数の契約を1通の公正証書に記載してもらうことは可能です(この場合、公正証書は1通でも、契約が複数であることには変わりありません。)。
任意後見の登記申請は契約ごとに行われます。複数の契約を1通の公正証書に記載した場合でも、登記申請は別個に行う必要があり、登記ファイルも任意後見受任者ごとに作成されます。また、作成手数料、印紙代等も複数分必要となることに注意しておく必要があります。
これに対して、複数の任意後見人に「重複して代理権限を与え、共同代理を義務付ける場合」は、数人の任意後見人があっても契約内容が不可分一体であり、契約としては1個であると考えられますので、必ず1通の公正証書で契約しなければなりません。その場合、委任事項の全部または一部について共同代理の特約が付されていることを登記簿に明確に記載するため、代理権目録とは別に「代理権の共同行使の特約目録」を契約書に別紙として添付しなければならないとされています。