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将来の判断能力の低下に備える場合の契約

将来型の任意後見契約

委任者が、現在は元気で何の援助の必要がなくとも、将来自己の判断能力が低下したときには、任意後見人による保護を受けたいと希望する場合に締結する任意後見契約です。援助は現時点からではなく、将来の任意後見監督人選任時からの援助のみを予定する契約であることから、将来型の任意後見契約と呼ばれています。任意後見契約に関する法律が予定する最も基本的な契約形態です。

任意後見受任者の権限

任意後見契約を締結することによって、任意後見受任者は、本人・配偶者・四親等内の親族とともに、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立てをすることができるようになるほか、本人の利益のため特に必要があるときには、家庭裁判所に対して本人に係る後見開始・保佐開始または補助開始の審判の申立てをすることができるようになります。

任意後見監督人選任の申立義務

任意後見監督人選任の申立義務者を定める必要性

任意後見契約に関する法律は、任意後見契約締結後、任意後見が開始されるまでの間の任意後見受任者の義務については、格別の規定を置かずに、当事者間の合意に委ねています。

しかし、将来型の任意後見契約の場合には、契約締結の時点と本人の判断能力が低下して任意後見開始が必要とされる時点との間に相当の時間的な乖離があり得ることから、他の類型の任意後見契約と比較して、あらかじめ任意後見監督人選任の申立義務者を定めておく必要性が高いことが指摘されています。そうしておかないと、本人がせっかく任意後見契約を締結しておいたのに、本人の判断能力が低下して任意後見開始の必要が生じたときには、本人の意図に反して、積極的に任意後見監督人選任の申立てに係わる人が現れず、要保護状態のまま本人が放置されるといった事態も予想されないではないからです。例えば、時間の経過とともに親族間に、申立てをするか否か、申立てをするとして誰が申立人になるかについて意見の相違が生じたり、また、本人の同居者または近親者以外の者が任意後見受任者となった場合には、任意後見受任者が本人の判断能力の低下に気付かないために、適切な時期に任意後見監督人選任の申立てができないという場合が考えられます。任意後見制度の機能を十分に発揮させるためには、任意後見契約締結の段階から、誰が任意後見監督人の選任申立者になるかを本人およびその家族とよく話し合っておく必要があります。

任意後見監督人の選任請求事務を任意後見受任者が行うべきものと定めた場合、この合意により、任意後見受任者は、申立権限だけでなく、適切な時機に任意後見監督人の選任申立てをしなければならない契約上の義務も負うことになります。 

任意後見監督人選任の申立義務者を定めていない場合

任意後見受任者を任意後見監督人選任の申立義務者とする合意がなかったときは、特段の事由がない限り、任意後見受任者は、任意後見監督人選任申立ての義務を負うことはありません。しかし、任意後見受任者は、本人から申立人になることを期待されているのが通常でしょうから、任意後見契約締結の経緯や他に申立人となる者のいない等の事情によっては、任意後見受任者を任意後見監督人選任の申立義務者とする黙示の合意が認定される可能性があることに留意しておく必要があります。

本人が行政書士・弁護士等の職業的後見人を任意後見受任者とする場合は、紛争性が高い等の背景事情があって、後見事務に加えて任意後見監督人の選任請求事務をも委任したいとする場合が通常でしょうから、契約の解釈として任意後見監督人の選任請求義務があると解される場合が多いでしょう。

本人の事理弁識能力の把握の必要性

適切な時機に任意後見監督人の選任申立てを行うためには、常時本人と接触してその生活状況及び健康状態を把握しておくことが必要となります。本人の同居者または近親者が任意後見受任者となった場合は別ですが、それ以外の場合は、同居者または近親者から連絡がもらえる体制を構築するか、そうでなければ任意後見受任者自身が適宜本人に面接等をして本人の生活状況等を見守っていく必要があります。将来型の任意後見契約の場合は、本人が「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況」に陥るのが、場合によっては十数年先ということもあり得るため、その間本人との接触を絶たないようにするには、それなりの注意と工夫が必要です。

このような選任請求義務を確実に履行できる態勢を整えるための方法として、次の「見守り契約」があります。

見守り契約

一般的に「見守り契約」といわれるものには、以下の条項が含まれることが多くあります。

  • 継続的見守り条項

これは、定期的に面接等の方法によって本人の身上(生活状況および健康状況)の確認をすることを内容とする条項です。本人との接触を継続することによって、本人との間の信頼関係を維持できるだけではなく、本人の考え方の変化をも把握できて、将来任意後見が開始された際の参考にもなります。

  • 任意後見監督人の選任申立て条項

「継続的見守り条項」により、本人の事理弁識能力が不十分な状況になったと認められたときは、任意後見受任者は、すみやかに家庭裁判所に任意後見監督人の選任を請求しなければならないとすることで、任意後見人による保護が必要となったときに、確実にその保護が受けられるようにするための条項です。

  • 報酬に関する条項

任意後見受任者が行政書士または弁護士等の職業的後見人であるときは、この条項が必要となります。

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