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金銭トラブル

私文書(契約書等)か公正証書か

例えば、A(貸主)がB(借主)に100万円を貸す際に契約書を作成する場合についてふれていきます。

私文書(契約書等)で契約を締結する場合、後で相手方から「そんな契約をした覚えはない」などと言われ、トラブルになる心配があります。そこで、このようなトラブルを避けるためには、契約締結時に取引の相手方の身分を確認する手段を講じる必要がありますし、よりこのようなトラブルを避けるために公文書(公正証書)により契約を締結するなどの方法を考える必要があります。

以下、契約締結を私文書(契約書等)で行う場合と、公文書(公正証書)で行う場合とで見ていきます。


私文書(契約書等)による契約

私文書(契約書等)とは

私文書(契約書等)とは、契約の当事者(貸主と借主、売主と買主など)であるAとBが、自分たちで作成した協議書・契約書・示談書等に署名押印した文書のことで、つまり、私人の立場にいる者だけで作成した証書のことをいいます(一般的に作成されている協議書・契約書・示談書等の多くは、この私文書(契約書等)に該当します)。

公文書(公正証書)と違い、これだけでは債務名義とならないので、債務者に対して金銭の支払いを求めるために強制執行(差押え等)したい場合は、裁判所に訴訟・支払督促等を提起して確定判決・和解調書・調停調書・仮執行宣言付支払督促などの債務名義を取得しなければなりません。


問題点

私文書(契約書等)により契約書を作成した場合でも、当事者ABにより契約が締結されたことを証明する証拠にはなります。

しかし、公文書(公正証書)ではなく私文書(契約書等)により契約を締結した場合は、いざ貸したお金を返してもらうときになって、Bから「お金を借りた覚えはない」とか「この契約書はだれかが私の名前と印鑑を使って勝手に作ったものだ」などと言われてしまった、というようなトラブルになることがよくあります。

このようなトラブルになるのは、私文書(契約書等)が当事者(この場合AB)のみで簡単に作成されたものであり、そのため、契約の締結やその過程を証明する第三者がいないからなのです。

また、いざトラブルが発生した場合、私文書(契約書等)に押印された印影が相手方Bの印鑑の印影と異なるときには、その私文書(契約書等)では、当事者ABにより契約が締結されたということを証明するには非常に弱くなってしまいます。契約書に署名された筆跡が相手方Bの筆跡と異なる場合も同様です。


トラブルを回避する対策

私文書(契約書等)によるトラブルを回避するためには、相手方の身分を確認するなどといった手段を講じておく必要があります。たとえば、

  • 契約書の押印には実印を用い、印鑑証明書を添付する。
  • 第三者に立ち会ってもらい、立会人として署名押印してもらう。
  • 契約書完成後に公証役場にて確定日付を得ておく。

などといった方法が考えられます。

しかしながら、第三者に立ち会ってもらっても、Bから「その立会人もウソをついている」などと言われることもありますから、決して万全とはいえません。そこで、より確実にトラブルを避けるための方法として公文書(公正証書)により契約を締結する、ということが考えられるのです。



公文書(公正証書)による契約

公正証書とは、一定の有資格者の中から法務大臣により任命される公証人が、当事者間に一定の法律関係が存在することを認めたうえ、これを公的に証明するために作成する公文書のことで、公証人法という法律の定める厳格な作成手続きに従って作成されるものです。

この公正証書を作成するためには、契約当事者双方(この場合AB)またはその代理人が公証役場に出頭します。その際、個人であれば印鑑証明書、会社であれば印鑑証明書と資格証明書を持参して提出します。代理人の場合には委任状も必要です。

そして、公証人の面前で契約の内容を説明して公正証書を作成してもらい、本人または代理人が署名押印して完成となります。このように本人確認が厳格に行われますから、私文書(契約書等)の場合のようなトラブルが発生することはありません

この他にも公正証書を作成するメリットとして、公正証書のもつ証拠力と執行力があります。


公正証書の証拠力

公正証書と私文書(契約書等)とを比べた場合、公正証書の方が高い証拠力を有しています。それは、公正証書が上記のように厳格な手続きで作成されるものだからなのですが、これにより、契約の成立・有効性に関する立証が容易になり、私文書(契約書等)の場合の上記のようなトラブルを未然に防ぐことができ、またトラブルとなった場合にも有利に解決することができます。


公正証書の執行力

公正証書を作成することによる最大のメリットは、この公正証書のもつ執行力です。公正証書を作成しておけば、万一相手方Bが約束した返済をしてくれなかった場合でも、訴訟等をすることなくいきなりBの財産(預貯金・給与など)に強制執行(差押え)を行い、債権を回収することができます。つまり、公正証書を作成すれば、訴訟を行うのと同じくらいの効果を得ることができ、万一、相手方が支払いをしてくれない場合にも前もって備えることができます。私文書(契約書等)しか作成していない場合に比べて、はるかに簡易・迅速に債権の回収を実現することができます。


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