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任意後見契約の記載事項(1)

委任事項についての合意の内容

後見事務を委任する合意であること

任意後見契約において委任の対象となる事務は、「自己の生活・療養看護および財産の管理に関する事務」(後見事務)に限定されます。したがって、それ以外の、例えば、本人の趣味の写真展の開催に関する事務などは、任意後見契約の対象とすることはできません。

法律行為を委任する合意であること

任意後見制度は、本人が精神上の障害により判断能力が不十分な状況に陥ったときに、任意代理によって判断能力を補完することを目的として設けられた制度ですので、委任の対象は、「代理権付与の対象となる法律行為」に限られます。

  • 代理権付与の対象となる財産管理の例
    • 預貯金の管理・払い戻し
    • 不動産その他重要な財産の処分
    • 遺産分割
  • 代理権付与の対象となる身上監護の例
    • 介護契約の締結
    • 施設入所契約の締結
    • 医療契約の締結

これらの法律行為に関する要介護認定の申請等の行為や訴訟行為も代理権付与の対象となり得るものと解されています。

ただし、法律行為であっても、一身専属権のように代理にふさわしくない事項や、もっぱら本人の自己決定に委ねられている事項については、任意後見契約の対象とすることはできません。

また、本人の食事の世話、身辺の清掃、入浴の介助等の事実行為は、法律行為ではありませんので、任意後見契約の対象外です。このような事実行為は、代理権目録に記載しないものとされ、登記事項にもなっていません。

したがって、事実行為を委任等の対象としたいときは、これを委任等の対象とする別個の契約(介護契約等)を締結しなければなりません。

合意は後見事務の全部または一部を対象とすること

任意後見契約においては、本人の自己決定権を尊重する見地から、何を委任事項とするかを本人の選択に任せています。したがって、本人の必要に応じて後見事務の一部を委任の対象とすることができます。例えば、不動産等の重要な財産の管理だけを委任の対象とすることも、身上監護だけに限定することも自由です。さらには、任意後見人Aには身上監護を、任意後見人Bには財産管理を委任するといったように、任意後見人の得意分野に合わせて任意後見人と委任事項を選択することも可能です。

停止条件の合意とその内容

任意後見契約には、任意後見監督人が選任されたときから契約の効力が生ずる旨の特約(停止条件)を記載しなければなりません。これを変更(例えば、本人が精神上の障害により判断能力が不十分な状況に陥ったときはただちに契約の効力が生ずると変更)したり、他の条件を付加(例えば、特定の第三者の同意があったときから契約の効力が生ずる旨の特約を付加)したりすることは、任意後見契約に関する法律第2条の趣旨に反し、許されないと解されています。

公正証書による契約であること

要式行為

任意後見契約は、本人の真意を担保し、契約証書の改ざん・滅失等を防止して紛争の予防を図るとともに、登記漏れを防止して、任意後見人の代理権に関する公的証明の発行を確実なものにするなどの観点から、公正証書による契約が義務付けられています。

法務省令に定める様式

  • 代理権目録

任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人から登記所への嘱託により、任意後見契約の登記がされます。その登記に基づいて登記所から発行される登記事項証明書(本人の本籍・住所・生年月日、任意後見人の住所・氏名、代理権の範囲等が記載されたもの)は、任意後見人が代理権を行使する際に、相手方に提示する委任状の役割を果たします。取引の安全と本人の保護を図るためには、登記事項証明書の正確性に欠けるところがあってはならないことはいうまでもありません。

そこで、登記事項証明書に任意後見人の代理権の範囲が正確に記載されることを制度的に担保するため、任意後見契約に関する法律3条が規定する法務省令(任意後見様式令)は、任意後見契約公正証書に同省令が定める様式の代理権目録を添付しなければならないとしています。

代理権目録には、同省令附録第1号様式(チェック方式)と同省令附録第2号様式(自由記載方式)の2種類があり、そのどちらかを利用してもかまいません。

  • 附録第1号様式の代理権目録

附録第1号様式の代理権目録には、およそ代理権の対象となりそうな事項があらかじめ網羅的に列記されており、これを用いる場合には、その中から、代理権の授与を必要とする代理事務の事項欄を選択して、これにチェックを入れて使用することとされています。この様式の代理権目録の利点は、代理権の範囲に疑義の生じないよう、記載事項および文言の定型化を図るなどして、取引の安全と円滑化に配慮したものとなっていることです。しかし、取引のあらゆる場面に対応しようとするあまり、選択肢が詳細過ぎ、かつ専門用語が使用されていて金融や不動産等の取引経験の乏しい人や理解力の低下した高齢者には難解であること、システム上の制約によりこれを訂正して使用することができないこと(訂正したいときは、附録第2号様式の代理権目録を使用しなければなりません)等の問題があります。

  • 附録第2号様式の代理権目録

附録第2号様式の代理権目録は、自由記載方式の代理権目録です。当事者が定めた代理権を行うべき事務を自由に記載することができます。ただし、その範囲は、「本人の生活・療養看護並びに本人が所有する財産の管理および処分に関する事務の全部又は一部」でなければなりませんし、また、代理権の範囲の解釈に疑義が生じるおそれがないようできるだけ具体的に明瞭に特定して記載しなければなりません。

例えば、代理権目録に「本人の生活全般に関する事務の全部」や「本人の療養看護に関する事務の全般」、あるいは「本人の生存に必要な一切の行為」と記載しただけでは、抽象的過ぎて、それが身上監護事項だけにとどまるのか、それとも財産管理事項に及ぶのかが不明確で、適切ではないとされていますし、また、「親睦に関する取引」と記載しただけでは、それが後見事務にあたるかどうか不明確です。仮に登記申請が却下されずに、代理権の範囲の特定が不十分のまま登記がされたとしても、任意後見人が代理人として取引、申請等を行うことになる段階で、取引・申請等の相手方(不動産業者・金融機関・登記官など)から、登記事項証明書の記載では代理権の範囲に疑義があるとして、取引を拒絶される事態を生じかねません。それでは、結局本人の保護に欠けることになりますので、包括的、抽象的表現はできるだけ避けるべきです。

なお、金融機関との取引については、附録第2号様式を用いて任意後見人が代理権を行うべき事務の範囲を記載する場合でも、取引の安全を保護する趣旨から、次の1か2の要領で対象行為を特定すべきであるとして、記載方法の定型化を図っています。

1)金融機関とのすべての取引
2)金融機関との取引のうち、○○取引

「○○取引」には、当座勘定取引、当座勘定取引以外の預金取引、貸金庫、保護預かり取引、融資取引、保証取引、担保提供取引、証券取引(国際公共債、金融債、投資信託及び普通社債)、為替取引等のいずれかを記載します。

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