任意後見契約を利用する場合の手続きと注意点(1)
任意後見契約の締結の準備
任意後見契約の締結は、公正証書によらなければなりません。
公証人が関与し、本人の事理弁識能力および意思を確認することによって、適法かつ有効な契約が締結されることを担保するために、公正証書による契約締結が必要とされているのです。
公正証書により契約が締結されるまでの手順は以下のとおりです。
任意後見契約書「案」の作成
- 本人の意思の確認
任意後見契約を締結することが決まったら、まず最初に、委任者である本人と受任者との間で任意後見契約書の案を作成します。
受任者は本人の意思を十分に確認しながら、その意思にかなう任意後見契約書の案を作成してください。そのためには、本人の希望について十分な聞き取りを行うことが必要です。本人の意思を確認しておくべき主な事項としては、以下のものが挙げられます。
- 本人の意思を確認しておくべき主な事項
- 本人の生活暦、人生観、嗜好等
- どのような財産があるのか、その財産をどのように維持または使用していきたいのか
- どのような老後を送りたいのか、本人の判断能力が不十分となった場合に、在宅で生活したいのか、それとも、施設に入所したいのか、どのような施設に入所したいのか
- 上記の各事項についての本人の意思を実現するために、どのような代理権を受任者に付与したいのか
- 契約形態の選択
任意後見契約の契約形態は「将来型」「移行型」「即効型」の3種類に分かれていますが、本人との面談を通じて、本人の判断能力や希望等を見極めたうえで、本人にとって最も適切な契約形態を選択し、任意後見契約書の案を作成する必要があります。
なお、移行型における任意後見監督人選任前の委任契約(財産管理委任契約)は、法律上、必ずしも公正証書による必要はありませんが、事務の紛争予防等の観点からは公正証書によるべきであり、かつ、任意後見契約と同じ1通の公正証書にまとめて記載することが望ましいと言えます。
- 代理権目録の作成
任意後見契約が締結されると、契約は登記されます。この登記事項には任意後見受任者または任意後見人の代理権の範囲も含まれています。任意後見人等の代理権の範囲を登記により公示することにより明確化して取引の安全を図ることを目的としています。
このように、任意後見人等の代理権の範囲を登記事項とした趣旨から、代理権の範囲を明確に定める必要があるため、任意後見契約の締結にあたっては、代理権目録を作成し、任意後見契約書に別紙として添付することになります。そこで、本人の意思や希望の聞き取り等により、本人から代理権を付与される事項が決まったら、契約書の案とともに、代理権目録を作成します。
代理権目録の記載方法は法令省令により定められており、付録第1号様式(チェック様式)と付録第2号様式(包括記載方式)があります。どちらの様式を選択するかは、本人と受任者の話し合いで自由に選べますが、実務上は、付録第2号様式の利用がほとんどのようです。付録第2号様式には、付録第1号様式のようにあらかじめ記載事項が定まっていないために、当事者で自由に代理権の範囲を定めることができる点や、付録第1号様式のような専門用語を用いた詳細な規定ではないため、本人の意思確認作業の負担がかからないなどの利点があります。